「俺さ、前から気になってた事があるんだけど」
「何よいきなり」
深刻な顔をして彼が切り出したので、私は思わず身構えた。
「桜味の食べ物ってあるじゃん」
「へ? う、うん」
「あれって、マジで桜を使ってるのか?」
表情の割に内容は大した事もなく、どうして身構えてしまったのだろうと自分に呆れてしまった。
「そりゃあ……桜味って言うからには、桜の花びらを実際に香り付けに使ってるはずよ」
「ふぅん、そうかぁ……」
遠い目をして考え込む彼の顔に思わず見惚れてしまった。彼は普段、馬鹿な事しか言わないが、たまに見せるこういう表情や仕草がとても素敵なのだ。
でも、大体の場合、こういう表情をしている時でも考えている事はやはり馬鹿な事で。
「よし、じゃあ食いに行こうか」
「何を?」
「桜の花を」
「あんた馬鹿でしょ!」
思わず身を乗り出して叫んでしまった。しかし彼は悪びれた様子もなく言った。
「いや、だってさ……どうせある程度は調理用に加工されたものを使ってるわけだろ? 本当に桜風味の食べ物が桜の香りを再現してるかどうか分からないだろ?」
それは確かに私も気になるところではあるのだけれど。
「だから行こうぜ、食いに!」
「いやいや、何でそうなるのよ!」
そう返すと、彼はしばらく眉間に皺を寄せて黙り込んでしまったが、やがて目を逸らしたまま口を開いた。
「お……お前と桜を見に行きたいだけだって言ったら、来てくれるか?」
胸が熱くなるのを感じた。そう、彼は普通にデートに誘うのが照れ臭かったから、あんな風に変な切り出し方をしてしまったのだ。
「……もちろん」
私は、彼のそんな素直になれないところも、好き。
「でも、花びらを取って食べちゃダメだからね」
「えぇっ。じゃあ、落ちてるヤツなら……」
「ダーメ」
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