クリスマス


「私、実は嫌いだったんだよね。クリスマス」
 それを聞いた瞬間、俺は思わず箸でつまんでいた卵焼きを落としてしまうほどに動揺してしまった。
 クリスマスまで後一週間。
 付き合い始めたばかりの彼女に何をプレゼントするべきかと、毎日頭を悩ませていた自分としては、心臓を鷲掴みにされる思いだった。
 しかし、彼女がどうしてクリスマスが嫌いなのかは容易に想像がつく。何故なら――
「それってやっぱり、誕生日と同じ日だから?」
 言うと、彼女は口をへの字に曲げて頷いた。
「うん。皆には、毎年お誕生日とクリスマスの二回、プレゼントをもらう機会があるのに、どうして私は一回だけなんだろうって、昔は思ってたのよ」
 そういう話は彼女以外からも何かと耳にする機会があったせいか、俺はプレゼントを二つ用意して彼女を驚かせてやろうと考えていた。
 問題は、彼女の喜ぶプレゼントが何なのかまだよく分かっていない、という事なのだが。
 さり気なく、探りを入れておきたい。
「じゃあさ。もし今、クリスマスと誕生日に二つプレゼントをもらえるとしたら、何が欲しい?」
 彼女がきょとんとした様子で俺の顔を見つめる。
「……なに? ひょっとして、二つ用意してくれるの?」
 俺としては本当にさり気ないつもりだった質問の意図があっさりとバレて、露骨に目が泳いでしまう。
「そ、そんな事言ってないだろっ。参考までにだよ!」
 くす、と彼女が笑う。ごまかしきれそうにないが、これ以上言い訳をするのも情けないので、口を噤んでおく事にした。
「何か勘違いしてるみたいだけど、私がクリスマスを嫌いだったのはあくまで子どもの頃の話だよ? 今は違うの」
「どういう事だよ?」
 思わず首を傾げる。
「今は……そうね。ひょっとしたら、好きになれるかもって」
「クリスマスを?」
「うん」
 彼女はテーブルに肘をつき、身を乗り出すような姿勢になった。
「大好きな人と、クリスマスと誕生日をいっぺんに過ごせるんだって思うとね。ちょっと楽しみなの。それがプレゼントなんだって思うと悪くないかなって。ううん、むしろ得した気分?」
 首を曲げたままの俺の顔と同じ角度になるように小首を傾げてみせる彼女の仕草が、とても愛らしい。
「高くていいものなんて買ってくれなくていいんだよ。ただ、あなたと過ごせれば、それで十分なんだから」
 それを聞いた瞬間、胸の奥が熱くなるのを感じた。今すぐにでも抱きしめてやりたかったが、ここは少し人目が多くて恥ずかしい。

 彼女は、俺と過ごせる事がプレゼントだと言ってくれた。
 だからと言って、もちろん贈り物としてのプレゼントに手を抜こうなんて考えはしないが、それで頭をいっぱいにするよりは、どうすれば彼女にとって素敵な一日――誕生日であり聖夜――となるのか、してあげられるのか。その事に、思いを巡らせる事にした。



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